研究内容 
 研究のアウトライン  無機固体表面上の原子・分子およびナノレベルの集合体(金属クラスター等)は吸着、触媒反応などに特異的な機能を発現します。これらの機能を小分子の活性化、酸化還元反応、有害物質の選択的吸着、電気伝導体等に利用して、自動車排ガス浄化触媒、環境にやさしい有機合成プロセス、バイオマス利用プロセス、燃料電池電極触媒等の開発および基礎研究を行っています。また新材料設計を目指して理論計算によるナノ材料の機能解明を進めています。 
 1.自動車触媒  「元素戦略に基づいた省貴金属・貴金属フリー自動車触媒の開発」
 ガソリンエンジンには有害な窒素酸化物(NOx)、一酸化炭素(CO)、エチレンなどの未燃焼炭化水素(HC)が含まれますが、自動車三元触媒によりこれらは窒素(N2)、二酸化炭素(CO2)、水(H2O)に変換され、私たちの環境を守っています。現在の自動車触媒には希少で高価な貴金属である白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)が用いられていますが、新興国の急激なモータリゼーションによりこれらの貴金属が将来不足することが危ぶまれています。当研究室では貴金属を使用しない自動車三元触媒の開発や、省貴金属のためのバイメタル化技術を研究しています。
 2.バイメタル触媒  白金族元素は触媒として非常に有用ですが、希少であるために白金族元素を用いないあるいは使用量を削減することが望まれています。これをかなえる技術としてバイメタル化に着目し、バイメタルナノ粒子触媒の開発・最先端の分析技術を用いた触媒解析・理論計算化学によるバイメタル化効果の解明といった基礎的研究を行っています。
 3.クリーンディーゼル  「ディーゼルPMの効率的な燃焼の基礎研究」
 日本でもクリーンディーゼル車の普及が広がっています。クリーンディーゼル車ではエンジンから排出されるPM(粒子状物質, いわゆるスス)をDPF(Diesel Particulate Filter)と呼ばれるセラミクスフィルターで補習し、燃焼除去することでPMの排出を抑制しています。しかし、燃焼除去には余分な燃料を使うため、燃費の悪化に繋がります。PM燃焼を効率化すれば、ディーゼル車の燃費は格段に良くなります。本研究室ではDPF上でのPMの燃焼過程について基礎的な研究を進めています。
 4.金ナノ粒子  金ナノ粒子触媒は酸化反応や水素化反応において他の金属ナノ粒子触媒には見られない高い性能を示し、さらにその性能は粒子サイズや形状といった構造によって大きく変化するため、非常に興味を集めています。わたしたちは原子スケールでの電子顕微鏡観察を基に、金ナノ粒子の構造-触媒性能の関係について研究しています。
 5.バイオリファイナリー  非食料バイオマスであるセルロースが石油代替資源として注目されています。セルロースを出発原料としたバイオリファイナリープロセスの基幹物質のひとつとしてHMFが挙げられています。当研究室では、担持金属触媒を構成する金属ナノ粒子と金属酸化物担体の触媒作用を理解し利用することで、HMFから有用化合物への高効率変換反応を開発しています。
 6.燃料電池電極触媒
の開発
 燃料電池が次世代発電システムとして注目されています。燃料電池自動車等で応用されているプロトン交換膜形燃料電池では、電極材料に白金などの耐腐食性の高い材料しか用いることができません。これに対して、アニオン交換膜形では電極内部の腐食性が低いためにさまざまな材料を使用できます。これに着目して白金以外の金属のナノサイズ化とその構造制御によって白金に匹敵する触媒性能の発現を目指しています。
 
7.量子化学計算を用いた触媒反応の解析   「理論計算で触媒反応の仕組みを探る」
 触媒反応は反応分子が触媒表面に吸着し、その上で反応が進行します。したがって、触媒上でどのように分子が吸着するか、吸着した後にどのように原子の組み替えを起こすか、また反応にはどのくらいエネルギーを必要とするか、などがわかると触媒反応の仕組みを探ることができます。そして、その仕組みがわかればより良い触媒を設計することができます。理論計算は、実験で困難な分子の吸着構造やエネルギーを詳細に調べることができます。図は、ニトリル基の水和によるアミド化反応において基質特異性を示すCeO2触媒に吸着した2-シアノピリジン(a,b)と4-シアノピリジン(c,d)の計算結果を示しています。