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研究紹介Research

私たちの研究室では『蛋白質の構造』をキーワードにシンクロトロン放射光のX線を用いて研究を行なっています.

高圧蛋白質結晶構造解析 Structural analysis of protein crystals under high pressure

高圧結晶構造解析蛋白質

図:左)常圧菌IPMDHの構造.  右)耐圧性に大きく寄与するアミノ酸残基

深海に棲息する生物の蛋白質は数百MPa(数千気圧)以上もの水圧にも耐える高い耐圧性を有していますが,その耐圧性を実現している分子構造の関係は充分に明らかになっていません.

私たちは,ダイヤモンドアンビルセル(DAC)と放射光の短波長X線による高圧結晶構造解析法を用いて,それらの蛋白質の圧力適応メカニズムの解明を進めています.

この高圧結晶構造解析法を用いて,常圧菌のイソプロピルリンゴ酸脱水素酵素(IPMDH)では高圧下で水分子が蛋白質内部に侵入することを見出しました[1].そこで私達は常圧菌と深海好圧菌のIPMDH の耐圧性の違いは,この水分子の侵入が関係しているのではないかと考えました.常圧菌IPMDHの場合266番のアミノ酸Serの側鎖が侵入して来た水分子と水素結合を形成し侵入を促進しますが,深海好圧菌IPMDHの場合266番のアミノ酸がAlaなので水素結合を形成することができないため,水分子が侵入し難いのではないかと考えられます.実際に,常圧菌IPMDHの266番のアミノ酸残基をSerからAlaに置換すると耐圧性が深海好圧菌IPMDHと同程度まで増加しました.このように深海好圧菌の蛋白質が備えている耐圧性には,極わずかなアミノ酸残基の違いが大きく寄与していることが初めて分かりました[2].この知見は,深海生物の耐圧性獲得のメカニズムの解明だけでなく,新規な耐圧性蛋白質の創生に活かされると考えています.


参照文献
[1] Acta Cryst., D68(3), 300-309 (2012)
http://dx.doi.org/10.1107/S0907444912001862
[2] Extremophiles, 20, 177-186 (2016)
http://dx.doi.org/10.1007/s00792-016-0811-4

 

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X 線小角散乱Small angle X-ray scattering

SAXS SAXS

図:(上)ミオシン東部ドメインのX線小角散乱から得られた構造モデル. 溶液中のタンパク質からは低分解能の構造モデルが得られるが,原子座標モデルと比較することで構造変化の詳細を明らかにする. (下)光反応性物質で化学修飾したタンパク質の小角散乱から,可視光を照射することで生じる構造変化をリアルタイムで観測することができた.

X線小角散乱を利用した蛋白質の構造解析では,溶液中の振る舞いを調べられるという利点があります.蛋白質は様々な物質と相互作用し,多くの場合は構造を変化させてその機能を実現します.生体に近い条件で構造解析できるため,蛋白質分子の動的構造揺らぎ,複合体の形成,リガンド結合と化学状態に対応した構造変化などがX線小角散乱を用いて調べられます.

私たちは,とくにミオシンなどのモーター蛋白質が力発生と構造との間でどのような関係を持っているのかという課題に挑戦しています. また光照射により構造を変える化学物質と蛋白質とを用いて,光を外部刺激とした構造変化と機能制御についてX線小角散乱法により調べることを進めています.
構造解析そのものに加えて構造解析の方法論についての研究も進めており,分子動力学などの計算機シミュレーションの手法を応用しています.


名古屋大学シンクロトロン光研究センターが建設に尽力し,あいちシンクロトロン光センターが開所しました.2013年度に供用が開始され,X線小角散乱ビームラインBL8S3も稼働中です.



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HIV 関連蛋白質の構造解析Structual analysis of HIV-related proteins

抗 HIV 因子 APOBEC
抗 HIV 因子 APOBEC

図:APOBEC3 の結晶構造とその Vif 結合領域(上:APOBEC3C,下:APOBEC3F).
濃い緑色で示された領域が Vif 結合に関与している.APOBEC3FではAPOBEC3Cの相互作用領域に加えて,マジェンダで示す部位もVifとの相互作用に関与している.

ヒトの細胞には,エイズの原因ウイルスである HIV の増殖を抑制する蛋白質 APOBEC3 が7種存在します.しかし,HIV は自身の Vif 蛋白質により APOBEC3 の分解を誘導してしまいます.そのため,HIV は APOBEC3 の防御機構から逃れ,体内で増殖してしまいます.

私たちは,APOBEC3 と Vif の結合を阻害し HIV の増殖を抑制する新規抗 HIV 薬開発に向け,両蛋白質の相互作用の構造学的特性の解明を目指しています. これまでに,7種のうち2種類の APOBEC3 (APOBEC3CおよびAPOBEC3FのC末ドメイン)の結晶構造解析に成功し,Vif の結合する部位を特定しました(右図緑色の部分).

現在は,他の APOBEC3 の構造解析や,蛋白質の構造情報と計算機シミュレーションを利用した 抗 HIV 薬開発などを進めています.

なお,本研究は(独)国立病院機構 名古屋医療センター 臨床研究センターとの共同研究で行っています.



参照文献
Nat Struct Mol Biol., 19, 1005-1010 (2012)
http://dx.doi.org/10.1038/nsmb.2378

J. Virology 90, 1034-1057 (2016)
http://dx.doi.org/10.1128/JVI.02369-18






 

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